田舎教師
清三は一々花の名を手帳につけた。――みつまた、たびらこ、じごくのかまのふた、ほとけのざ、すずめのえんどう、からすのえんどう、のみのふすま、すみれ、たちつぼすみれ、さんしきすみれ、げんげ、たんぽぽ、いぬがらし、こけりんどう、はこべ、あかじくはこべ、かきどうし、さぎごげ、ふき、なずな、ながばぐさ、しゃくなげ、つばき、こごめざくら、もも、ひぼけ、ひなぎく、へびいちご、おにたびらこ、ははこ、きつねのぼたん、そらまめ。
田山花袋「田舎教師」の一節です。
ここの文章だけを抜き出しても、何が何やらですね。
たまにはなぞり書きしやすい平仮名を。
だけど「大人のなぞり書き」って言うくらいだから、絵本や子供向けの本はちょっとな。
なんてことをつらつらと考えていた時に出会ったのがこの文章でした。
草花の名前を羅列しているだけ……と言ってしまえばそれまでなんですが、これだけしつこく書き綴ってあると、それはそれでちょっと面白く見えてくるから不思議です。