大切な雰囲気
押入れから古い一束のはがきと手紙の包みが現われた。調べてみると昔、両親が私の美校入学の当時、東京から送ったところの私の手紙類をことごとく集めておいたものだった。
私はなにかおそろしいものの如くその一枚を読んでみた。するとその中には、「御送付下されし小包の包み紙は細かく切って鼻紙といたしました。それくらいの倹約をしています」とあり、あるいは「画架を買うのにやむを得ない道具のこと故思い切って買います。三円五〇銭です、高価です、しかし丈夫なものですから、生涯使うことは出来ます」。その他かかる文句をいろいろに並べて両親を安心させようと努めている。そうしておいて甘い親を欺す気かと人の悪い誰かはひやかすかも知れないが、決して私はさような者ではなかった。当時二十何歳の男としてはなんと善良にしてしみったれそのものであったことかと思う。