女生徒
「本当の意味の」とか、「本来の」とかいう形容詞がたくさんあるけれど、「本当の」愛、「本当の」自覚、とは、どんなものか、はっきり手にとるようには書かれていない。この人たちには、わかっているのかも知れない。それならば、もっと具体的に、ただ一言、右へ行け、左へ行け、と、ただ一言、権威をもって指で示してくれたほうが、どんなに有難いかわからない。
太宰治の「女生徒」の一節です。
有明淑という女性の日記をベースにした太宰治の小説「女生徒」。
ベースにしたと言えば聞こえはいいけれど、作品の実に9割がこの日記によるもので、太宰自身のオリジナルは1割しかないのだそうです。
オリジナル1割では作品としてどうなのよ?と思わなくもないのですが、読みやすさという点だけで見れば、若い女性が書いた日記というだけあって、文章がものすごくわかりやすい。
文豪と言われる人達の文章は、ともすれば難解で、一文字一文字かみしめるように読まないと意味不明になってしまうことも多いのですが「女生徒」のわかりやすさ、共感のしやすさは(いい意味で)異常。
主人公の女性と私とではだいぶ年齢が違いますが、それでも彼女の気持ちが心の中にすとんと落ちてくるかのようです。
だからこそ、なぞり書きにはぴったりの文章です。書いていてとても楽しい。
あと何か所か同じ作品から抜き書きしてみたいな、と思っています。